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「にーたっ、おにいーたっ!だいしゅき!」
「あたしも好きっ!」
「はいはい。おやつ買ってやったからだろ」
僕は笑いながら、弟妹の頭を撫でてやった。母はやっと抱っこ責めから解放されたとばかりにキッチンへ向かい、夕飯の後片付けだろう、食器を洗って、カウンターからこちらを眺めている。
「これ買ってこなかったら、僕は嫌われてたのか?」
冗談めかすと、弟はスプーンを振り上げて否定した。
「ちあーう!おにいーたがだいしゅき!」
「あたしの方が好きだもん。大好き!」
「……そっか」
「うん!!」2人の声が重なる。
「……そうだな」
過去はどうあれ、僕は恵まれている。餓えはどうにもならなくても、それでもこんな刹那に潤うことはある。
霧島のような、生まれ変わってでも復讐したいというほどの憎しみはもう抱えていないのだ。
それはやっぱり幸福なことなのだろう……と。
僕と霧島はきっと全然似てないのだろう……と。
弟と妹の顔を見て思った。
少しだけ。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんは?」
「おにいーたはっ?」
「好き?」
「しゅき?」
「さあなぁ。どうだろうなぁ」
「えーん」
「えーん」
「嘘泣きされてもな……」
いつまでもからかっていると、さすがに母が呆れ顔で笑った。
「お兄ちゃん、あんまり意地悪しないでね」
……はい。
「好きだよ」
この言葉は、優しかった。
弟や妹よりも寂しそうなあの子が思い浮かんで、僕の中に何かが芽生えた。
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