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そこは四角い空間だった。
白い天井、白いカーテン、白いベッド。窓から差し込む光が少女の体に降り注ぐ。
ぼんやりとした彼女の視界の中に一つ、黒く長いものが立っていた。目を凝らすとだんだん輪郭がはっきりしてきて、それが学ランの少年であることに気付く。
「……だれ」
ぽろりと漏れた声に少年が息を呑む。
随分と目つきの悪い少年だ、と少女は思った。眉間に皺が寄りすぎている。「そんなんじゃ大人になってから酷い顔になっちゃうよ」とたしなめようとして、口から空気の塊が小さく漏れた。
筋肉が動くのを拒否している。
自分の意思とは関係なくまぶたが閉じていくのを少女は感じた。
(学ランなんて、見たのいつ以来だろう)
高校は学ラン指定だったから、通学していた時は毎日見ていたはずだ。ではその毎日はいつ終わった?今はいつなのだろう。そもそもなぜ私はここで横になっている?
記憶を引っ張り出そうとしたが、睡魔はますます強くなる。しばらく抵抗していた少女はとうとう全てを投げ出し引き摺られるまま眠りについた。
少女が解ったのは一つだけ。元いた世界に帰ってきたことだけだった。
自分だけ生き残って、少女……斎は帰ってきたのだ。
あの不可思議で悲しくて、酷く愛しい世界から。
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