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斎はどこにでもいる普通の女子高生だった。多少クールすぎるところはあったが周りには理解ある友達がいたし、クラスの仲間ともよく話し打ち解けていた。
部活やバイトなどはしておらずこれといった趣味もなかったので人から見れば充実した生活とはいえなかったかもしれない。しかし彼女は満足していた。というより、「現在」を何とも思っていなかった。幸せを望んでいなかった。自分から人生を楽しもうという気力がなかったのだ。
彼女は生き方が解らなかった。学生特有のスチューデントアパシーなんて簡単なものじゃなく、ふと気付くと自分がなぜ生きているのか真剣に考えている。「過去」に思いを馳せている。
小学四年生の時、弟が死んだ。
交通事故だった。斎とボールで遊んでいたとき、突然全身が硬直したのだ。そしてふらふらと道路のほうへ歩き出した。斎の制止の声が全く聞こえていない様子で、何かに誘われるように交差点へ向かっていった。
狙ったかのように現れたトラックがスピードを落としきれず激突し、弟の体は周囲に鈍い音を響かせ、視界から消えた。
その後のことは覚えていない。
ただ、辺りが弟の血で真っ赤だったことしかわからない。
斎は悔やみ続けた。
どうして姉である自分が弟を止められなかったのか。押し倒してでも止めればよかったのになぜそうできなかったのか。
ショックが大きすぎたのか涙は出なかった。でも自分が沈んでいたら父と母はもっと辛くなってしまうのではないかと考え、葬式後はなるべく笑うように努めた。
同い年の子供達は冷たい奴だ、わざと殺したんじゃないかと罵った。周囲の大人たちは不気味だと囁き合った。
父と母は、自分を悲しそうな眼で見ていた。斎の考えを見抜いていたわけではなく、可愛がっていた息子の面影を生きている娘に見ていただけだった。
それでも斎は笑い続けた。
笑って笑って、笑い疲れて、中学の頃には口数の少ない物静かな少女になっていた。
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