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次の日、家族全員で国立競技場へ向かった。
今日は関東大会を勝ち抜いた誠龍の初めての全国大会だ。
誠龍は競技者として。良春はそのコーチとして。そして、薫と愛は応援だ。
他にはいい経験になると、道場の門下生を数人連れてきた。
誠龍は初めての空気に緊張の色を見せていたが、胴着に着替え、良春とウォーミングアップをしていると次第に緊張もほぐれ、
試合の前にはぎこちないながらも笑顔を見せた。
優勝するには3試合を勝ち抜かねばならず、誠龍は年の割に小柄なのに対して、相手は3人全員が誠龍より大きかった。
それも当然なのだ。
なぜなら、誠龍の出る部は小学校低学年以下の部であり、
誠龍以外は小学3年生なので、今年小学校に入学する誠龍が出場するなど前代未聞であるからであった。
それにも関わらず、
誠龍は鮮やかに2勝をもぎ取り、決勝へと足を進めた。
それには観客も驚きを隠せなかったようで、呆然としていたが、
当の本人である誠龍はケロッとした顔で良春の元へ戻ったのだった。
「誠龍。行けるか。」
言葉少なく良春は誠龍に問いかけた。
誠龍もそれに、はい。と短く答える。
その顔はもはや親子ではなく、師弟関係の築かれた会話と顔つきであった。
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