里心

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中島と俺は学校が終わると必ずこの楽器店のショーウインドウでトランペットを眺めるのが日課だった。 「俺は大人になったらジャズマンになるんだ、女にもてまくり、そして美女を嫁にもらうんだ」 これが当時の中島の口癖だった。 どこまで本気だったのかは分からないが… その後彼はバイトして買ったトランペットで狂った様に練習していた。 大人になった彼はジャズマンにはならず、会社員になった。 ワイルドな風貌が受けたのか、女性には不自由しない人生を送っているようだ。時々中島と会ったが毎回違う女性を侍らせていた この店で俺はトランペットを買った。 無論当時とは値段も型も変わってしまってはいたが。 餞別には似合わない品かもしれないが、これが一番気持ちのこもった贈り物の様な気がしていた。
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