1365人が本棚に入れています
本棚に追加
「だから、どうしても相いれる事はできなかったのかもしれません」
どうしようもなかったのかもしれない。
その思想は、同じ事を望んでいても、向いている向きは、正反対だったから。
「だから、きっと、これは大きなすれ違いだったのだと、思うんです」
さくらが言い切れば、斎藤は軽く笑う。
「すれ違い…か」
「……やっぱり忘れてください」
顔を赤くさせてさくらは言う。
「なぜ」
「あ、いや…」
恥ずかしくてしどろもどろになるさくらを見て、斎藤はさらに笑みを濃くする。
普段無表情だった斎藤が、ここまで笑うのは珍しい。
斎藤が帰った後、閑散としたその部屋の中をふわりとした、春の穏やかな風が駆け抜けた。
窓の向こうを見れば、どこから流れて来たのか、桜の花びらが踊っていた。
「沖田さん、今年も桜、咲きましたよ」
沖田の刀を片手に、さくらはつぶやいた。
―― 見えなくても構わない ――
―― 聞こえなくても構わない ――
いつかの沖田の言葉が甦る。
―― それでも、ひとつだけ忘れないで ――
―― 僕は、ずっと ――
―― 君の傍にいるから ――
風に乗って、声がした気がして目を閉じる。
優しく抱くように、暖かい風がさくらを包んだ。
― 終 ―
最初のコメントを投稿しよう!