終章-桜の便り

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あれから、数年経った。 すべてを失った少女は、千駄ヶ谷から離れる事ができず、千駄ヶ谷にある長屋で暮らしていた。 蝦夷(北海道)の地で終わりを告げた、旧幕府軍と新政府軍との戦い。 幕府軍が負けた事は、さくらの耳にも入っていた。 薩摩藩、長州藩、土佐藩、肥前藩などの出身者でほぼ固められた新政府にとって、新撰組が仇敵である事に変わりはなく、さくらは、新撰組と関わっていた事を隠しながら暮らしていた。 そんなさくらの家には、二振の刀が置いてある。 片方は、兄や父が使っていたもの。 もう片方は、沖田が使っていたもの。 さくらはこまめに手入れをしていた。 手入れをしている時間は、その刀の持ち主と、逢える気がしたから。 大切に大切に、置かれていた。 「クロ」 呼べば、クロはさくらの元へ駆け寄った。 「お前だけになっちゃったね」 クロを撫でながらさくらは言う。 しばらくすると、戸口が叩かれる音がした。 「すまぬ、誰かおらぬか」 どこか聞き覚えのあるような声を聞き、さくらは立ち上がると戸口を開けた。 そこにいたのは―― 「斎藤さん」 「久しぶりだな。邪魔をする」 「…あっ、どうぞ」 しばらくの間呆気にとられていたさくらは、慌てて斎藤を中へ入れる。 「今は藤田を名乗っている」 部屋に入りながら斎藤は言う。 「あ、すみません。…藤田さん」 「呼びにくければ、斎藤でもよい」 ペこりと頭を下げれば、斎藤は言う。 窺うように見上げれば、斎藤は微笑んでいた。 「じゃあ、斎藤さんで……」 言えば斎藤は頷いた。
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