1365人が本棚に入れています
本棚に追加
「長屋暮らしか」
「…はい。お金もないので……」
さくらは、現代でいうところの貧乏画家だ。
「でも、斎藤さんは会津にいたんじゃ……」
「東京に出て来たのだ」
「東京、ですか」
聞き返せば、斎藤は頷く。
「新たに募集された警視庁の警視官(警察官)に応募し、採用された」
「いままでと似たようなお仕事ですね」
さくらが笑顔で返せば、斎藤も少し照れながら、そうだな、と返した。
四民平等などで、身分はほとんどなくなり、平民でも苗字が持てるようになった。
廃刀令も出て、武士が刀を挿して歩く事もできなくなった。
特権を奪われた士族の不満は募りつつある。
「…総司……」
斎藤の目が、沖田の刀にそそがれていた。
「最期まで、近藤さんや、皆さんの事を、心配していました」
「近藤さんの事、総司には…」
「言ってませんよ」
さくらは、あの頃を思い出し、少し辛い気持ちになった。
「私、最近思うんです。あの時代は、とても悲しい時代だったのだと」
「悲しい時代?」
斎藤が聞き返せば、さくらは頷く。
「皆が皆、この国の事を考えていました。思想は違えど、立場は違えど、皆、この国の未来を、考えていました」
小さく頷いて、斎藤もさくらの意見に同意する。
「それでも、皆、それぞれ立場があり、大切な仲間がいた」
幕府側には新撰組がいた。
薩長側には兄がいた。
新撰組には新撰組の仲間がいて、薩長には薩長の仲間がいた。
最初のコメントを投稿しよう!