終章-桜の便り

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「長屋暮らしか」 「…はい。お金もないので……」 さくらは、現代でいうところの貧乏画家だ。 「でも、斎藤さんは会津にいたんじゃ……」 「東京に出て来たのだ」 「東京、ですか」 聞き返せば、斎藤は頷く。 「新たに募集された警視庁の警視官(警察官)に応募し、採用された」 「いままでと似たようなお仕事ですね」 さくらが笑顔で返せば、斎藤も少し照れながら、そうだな、と返した。 四民平等などで、身分はほとんどなくなり、平民でも苗字が持てるようになった。 廃刀令も出て、武士が刀を挿して歩く事もできなくなった。 特権を奪われた士族の不満は募りつつある。 「…総司……」 斎藤の目が、沖田の刀にそそがれていた。 「最期まで、近藤さんや、皆さんの事を、心配していました」 「近藤さんの事、総司には…」 「言ってませんよ」 さくらは、あの頃を思い出し、少し辛い気持ちになった。 「私、最近思うんです。あの時代は、とても悲しい時代だったのだと」 「悲しい時代?」 斎藤が聞き返せば、さくらは頷く。 「皆が皆、この国の事を考えていました。思想は違えど、立場は違えど、皆、この国の未来を、考えていました」 小さく頷いて、斎藤もさくらの意見に同意する。 「それでも、皆、それぞれ立場があり、大切な仲間がいた」 幕府側には新撰組がいた。 薩長側には兄がいた。 新撰組には新撰組の仲間がいて、薩長には薩長の仲間がいた。
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