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僕がその言葉を聞いたのは何気ない日の夕飯のときだった。
「父さん、再婚しようと思うんだ」
聞き逃したフリして再度聞き直してみても、父親の口から出てくる言葉は変わらなかった。
僕の母さんが亡くなってから、父さんがはこれまで男手一つで僕を育ててくれた。
だから、そのことには言葉にならない感謝を送りたいし、再婚も賛成だ。
正直驚いたものの、二つ返事を返してお茶をすする。
「今度、その人が挨拶に一度こっちへやって来るそうだ。父さん、仕事を抜けられないから、悪いけど帰るまで相手をしてもらえないか?」
「えっ!?いきなり僕一人で対応するの?めちゃくちゃ緊張するよ…」
「まぁ、そう言うな。そんな長い時間でもないから頼むよ」
「うん、まぁ、しょうがない。分かった」
一応、その人と名前と容姿を聞いて食事を終えた。
○
食事で使った皿を洗い終えた後、リビングから和室に移動した。
その部屋の隅に置かれた仏壇の前に座り込み、写真の中で笑顔を浮かべる女性に話しかける。
「母さん…、明日新しい母さんがやって来るらしいんだ。大丈夫かな?僕、その人のことを母さんって呼べるかな?」
感じた不安を吐き出すように話しても、写真の中の母さんは僕に笑いかけるだけだった。
「新しい母さんか…」
不安な僕はその日はなかなか寝付けず、ベットをゴロゴロと動き回った。
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