一、カエルが過去に飛ばされる

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 星のない黒い空の下、崩れかけた壁がとぎれとぎれに続く。  二つの影が、静かに駆けた。  合成繊維のツナギを着て肩あて、すねあてを付けた二人が、注意深く走る。  がれきの影から、奇妙な物が飛び出して、彼らの行く手をはばんだ。  泥のようなものが奇妙なうなり声をあげ、二人を襲う。 「おおーっ、出たな!」  ツナギの男の一人は、刀を抜いた。闇に刃がぎらつく。ESPが伝わり、刀が光をまとった。  男にしてはやや小柄な体がしなり、刀が細い月のような弧を一瞬、浮かべる。  泥は両断された。 「ほい、いっちょあがりと」  赤みがかった黒の、やや縮れた髪を乱し、若い男は得意になる。  その顔立ちは幼さを残して、やや中性的だ。 「カエル、まだいるぞ」  もう一人の長身の男が、声をかけた。こちらは金の長髪を揺らす。  暗がりに形の定まらない者どもがいくつか、うごめき近寄ってくる。 「突然変異体・リビングマド。危険度Dだが、ちょっと多いな」  金髪の男は冷静に分析する。  リビングマドたちは人にも見える形をとり、二人に飛びかかった。 「うおーっ! わーっ!」  カエルは刀を振り回し、リビングマドをやたらに斬りつける。 「カエル、斬るよりESPボムを使え」  いいながら、金髪長身の男は手にESPを集中する。光が集まり、球を造った。  球が投げられると、強い光が発せられ、熱が伝わる。  衝撃が周囲に飛散し、リビングマドたちを分解した。  煙の中で、カエルはせきこむ。 「あぶねーじゃねえか、ゴロウ!」  怒鳴るカエルに、ゴロウと呼ばれた男は涼しげにいった。 「ESPでバリア造ってなかったのか?」 「そんなヒマあるか!」 「まあいいじゃないか。行くぞ」  ブーツで地を打ち音をきかせて、ゴロウは先へと歩く。  ぶつぶつ文句いいながら、カエルは刀を腰のホルダーに納めた。
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