1.『鵺』という妖怪

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1.『鵺』という妖怪

 頭上で10~20m級の巨大ロボがマシンガンを乱射していた。作戦は既に完全に崩壊していた。レベッカは遠方のバンカーにへばりついて隠れながら、その様子を淡々と撮影したり、送信されてくるデータのチェックをしていた。少し緊張はしていたが、自分は蚊帳の外の存在だし、いま殺したり殺されたりしている人達は概ねクズばっかりという確信があったので、これといって感情的な態度を表すようにはなれない。そんなことよりも電波障害がひどい。ちゃんと記録できているだろうか。プラズマがビカビカと光る空を見上げて、祈る。早くうちに帰らせてください。  その時代、既に戦争というものは道楽にまで成り下がっていた。いわゆる諸大国において、あまりに平穏な日々を持て余した大金持ちのみなさんたちは、有り余る資産を貧民たちに分配しはじめた。戦争のショーを演じる演者へのお給金としてだ。  そんなアホのようなリスクの付きまとう仕事に誰が手を出すのかと思うかもしれないが、実際これが割と盛況で、進んで死地に飛び込んでいく人間はたくさんいた。理由は単純、貧富の格差がどうしようもなくなってしまっていたからだ。  参加者はほとんどの場合貧民で、それも世界中ありとあらゆる地域から集まった。このお話は未来の出来事という設定だけれど貧しい人間なんていつの時代でもたくさん居るもので、それもあんまり最底辺な人たちの生活水準というものは、このテキストがつらつらと読まれている今現在の世界とほとんどかわりがない。そもそもそれは生活水準とかどうの言うレベルのモノですらなくて、学はなく、職にあぶれ、気紛れな気候や天災ごときの影響で食にありつけなくて、気が付いたら干からびたとうもろこしを噛りながら伝染病や飢餓で死んでたとかそんなのだ。そんな層のもとに生まれついた時点で、その人たちは人生を諦めざるをえなかった。  そしてそこに、少し危険な戦争ショーを戦って小金持ちになってみないかという募集がきたら。
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