15人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
「終わりです Mr.ノートン。指揮者会の方々は遊び飽きたそうですので。貴方を拘束する」
「その必要はないよ」
「わかりかねますね。これまで“権利”なんていう執着する意味を問いたくなるような謎ルールに自ら囚われて、可哀相な女の子の心を利用してまで騒動を起こしたあなたが我々の権利は認めない?」
「君たちに権利が?」
「無いと言いますか」
「さーね? まぁ既に時おそしだ。目的は遂げさせてもらう」
そう言うと、ノートンはマリアの死体の横においてあった けばけばしいデザインのヘッドホンを手にとって頭にかぶる。ナノマシンを介したイメージの共有システム……『獏』。『鵺』の正体。幻想を作り出し、幻想を共有し、幻想の中で起きた事実を事実にダウンロードするプログラム。戦争ショーの経営を麻痺させたモンスター。あの宇宙人専用みたいな謎デバイスがその本体か。
「目的ですって? いまさら何ができると」
「できるさ。そもそも、わたしの大元の目的は死ぬことだしね。なに、理由? だって、わたしは全く罪のない1000人程の命を焼き殺したんだ。そのお詫びはしなければならない。そしてさらにだ、今のわたしは、殺されたマリアのために友人として復讐の権利を手に入れた。知っているかい? 行動の結果を事実と認識して現実にダウンロードする特殊非現実イメージ共有システムのちょっとした応用で、接続のみちすじを少し変えてやれば『獏』はこんな使い方もできるんだ」
「え……?」
ノートンが拳銃を取り出すのでレベッカたちは銃を構えなおす。が、ノートンはそれを自分の頭部に押しつけると引き金を引いてしまった。自分を撃ったのだ。
額に空いた穴からウニョウニョと血を吐きだして、ノートンは椅子からずり落ちる。死んだ。
「……冗談じゃないわ」
唐突な結果に、レベッカはつぶやく。
「まったくだ、狂ってやがる」
同僚は相槌を打つ。
「え」
「え」
レベッカは戸惑う。明らかに何故か欠落していたらしい考えがレベッカを覆った。ノートンが狂っているなら、彼の焼き殺した1000人よりもさらにたくさんの人間を間接的に殺す支援をしてきた自分とはいったい何者だろうということになってしまうじゃないか。重ねてきたらしい罪を意識することもなく、償うという発想もなかった自分とは、いったい。レベッカは右手に気が付く。ノートンと同じように握っている拳銃。
最初のコメントを投稿しよう!