1.『鵺』という妖怪

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 わざわざ戦争ショー用のインパクトのためだけに、なんちゃってSFで未来的な人型兵器を開発して製造して戦争させて、娯楽のためだけに完全に無駄でしかない新たな経済を作りだしちゃうような途方も無い大バカ者たちが主催者なのである。参加者に出る報酬は莫大な量だ。もちろん兄弟を餓死させながら育った人たちにとっての“莫大な”という意味ではあるが。  それでどんな褒美がもらえるかというと概ね次のような感じで、本格的に雇われ兵を志願する者には根本的な教育がたたきこまれ、専門的な技能を教えて、戦士としての、その報酬として、十回生まれ変わっても稼げなかったような給料が降ってくる。元の地獄からは想像できないような額だ。直接戦闘には参加しないようなエキストラ的参加者たちにもこれは同様、喉から手が出るような大金がじゃらじゃらと……。そんな感じなわけで、世界中で貧困にあえぐ人たちにとってこの戦争ショーは地獄でしかない現実からはい上がる千載一遇のチャンスになりえたのだ。  ショーが始まってみれば、人々はまず戦場に華を添える避難民役の踊り子として銃火の中に飛び込むことにチャレンジした。慣れてくるとランチャーや小銃をぶっ放すようになり、調子に乗った挙げ句、果ては村一族を説得すると生れ故郷を爆弾で吹っ飛ばす予定地にする契約を結んだりしてお金を稼いだ。見せ物として、上流階級以外からも金を巻き上げながら戦争ショーは何だかんだ廃れなかったので、たとえ戻る場所を蜂の巣にされようと、核汚染されようと、皆ショーを構成する仕組みの一部としてしがみつき続けることで明らかに以前より安定した糧を得ることができた。こうなっては、かつてのどうしようもなく干からびた故郷でくたばっているわけにはいかなくなった。そもそも紛争や抗争の果てしない先のその結果として自らどうしようもなく干からびていったなんて過去を持つくせに、今さら何を尻込みしてみせる必要があるのかと。威勢よく持ち出してきた銃は、もう十分すぎるほど己の手に馴染んでいるくせに。  戦域はだらしなく世界あちこちに拡大して、賑わって、多くのお金が流れた。
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