1.『鵺』という妖怪

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 そんな中で、特に戦争ごっこに酔ってしまった人らは次第に夢を持つようになった。巨大な出資者たちがそのリアルタイムシミュレーションゲームを遊ぶために個別に持つ傭兵団へ、彼らは競って志願している。一人前の兵隊となって遊びの主役である大型の人型ロボ兵器ヒューマノイドアーミー(HA)のパイロットとして活躍、(主に金銭的に)ビッグになって、もうずっとずっと遊んで暮らすのだ。陳腐と笑うかもしれないが、しかしこれが夢だ。匙にひとすくいした豆に何日分の栄養があるか考えていた少年時代には思い付きもしなかったような奇跡のような可能性が、地平の彼方にわずかに光って見えているのだ。そのわずかが、いかに眩しいことか。手をのばさずにはいられない。だから、そうやって伸ばした限りは、絶対に手中に収めなければ。それはもう一生懸命に訓練にいそしんだ。  そうして今日、彼らはこの舞台に立っただろう。  螺旋の溝が入った黒い穴が、ディスプレイを通し、こちらを向いている。 「こんなところで死ぬなんて」  通信で一緒に流れてくる音声も聞き流しながら、レベッカは淡々と送られてくるデータを見つめる。  いつもどおり華々しく始まったはずの人型兵器HAたちの戦争ショーに、突如割って入った謎の機体。  不穏な事件は数ヵ月前から。不意にどこからか現れた謎の機体が、無差別に戦場を皆殺しにした、と。  瞬く間の破壊と混乱、そして今に至り……戦闘区域に残る機体反応数はすべて足してもあと4つ。どうしてこんなことになってしまったのか。縦横無尽に理不尽な破壊劇を繰り広げた謎のチート機体が両腕に握ったHA用拳銃(砲?)の砲口をぐるぐる回して閃光を発しながら踊れば、HAたちはおかしなくらいにあっけなく爆死していく。  また1機、位置が悪かったHAがやられる。孤立しているらしいと気づいた時には遅かった。まぁそれ以前の問題かもしれないが。  レベッカは今際の際の機体を確認する。送られてくるデータを端末の画面で見ると、距離5m。敵機攻撃弾道予測線が2筋、機の胸部コクピット位置に見事に重なっている。被弾確率が悪い方向へ振り切っている。こんなことが実際に目の前で引き起こされる今の今まで、戦闘はてっきり数千から数百メートル単位の間隔で撃ち合うものと思っていた。
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