1.『鵺』という妖怪

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 ルール上は戦闘不能に追い込めば良いだけなので、当てにくい重量級の武装は避けられる傾向があるためだ。“ショー”ということを傭兵皆がわきまえていることも大きい。目的は勝つ事で、殺すことじゃない。雇い主からしてもパイロットの価値はそれなりに貴重だし、生き残っただけでも観客たちは「ラッキーだ」と称賛してくれて、盛り上がる。傭兵のくせによくも大事にされている。馴れ合いで、ごっこ遊びで、大出世。万万歳だ。……だが、あの謎の乱入者は全く違う。まるできちがいだ。  レベッカは双眼鏡を向ける。パイロットは機体ハッチを開くと何故だかキョロキョロと辺りを見回しだして、直後に機の爆発に巻き込まれて死んだ。本当に容赦が無い。  残るHAは1機。  もう無理だろうなぁ、とレベッカが茫としつつ最後の機のデータを見つめていると、対峙していたはずのソレが急にレベッカの方を振り向いた。 「え……」  ゴゴッっと、ソレのブースターが威勢よく火を噴く。 「えっ、え、そんなのぜったいおかし……んぎゃッ」  レベッカは思わず伏せた。と言うかコケた。スピーカーが音割れするほどの轟音が容赦なく近づいてくる。 「やめてください死んでしまいます」  レベッカは頭を抱え込んで丸まる。本来のヘチョさを全面的に発揮しながら音や衝撃が過ぎ去るのを待って、ゆっくり顔を上げた。  静かだ。助かったのか。ずるずるとバンカーから這い出る。 「あ……」  見上げるとHAが1機、あの最後の機体だろう。損傷のためぎこちない動きをしながら、レベッカの頭上に控えていた。レベッカがソレを見つめていると機体のハッチが乱暴にあけられて、中からパイロットが出てくる。出てくるなりそのパイロットはヘルメットを脱いで、ゲロッた。レベッカは「助けてくれてありがとう」という台詞を心にそっとしまい込んで、 「あの、だいじょぶです?」 無難な台詞で話し掛けた。一寸置いたあとパイロットはこちらを振り向く。 「みんな死んじまったのか?」  男はそう聞いた。 「はい」 「そう、なのか……?」 「それよりあの機体は?どこへ……」 「わかんない。消えた……」  混乱しているらしい。
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