0.過去(2)

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0.過去(2)

マリアという少女について。  また過去。  空は晴れ渡っていた。  マリアは車に揺られつ、ぼけっとそれを見上げる。上空には1機、プロペラの音を微かに鳴らす乗り物が浮かんでいた。羽根車が左右に並んで2軸ついた、ヘリコプターのような乗り物だ。一体何の目的だろうか。ここには見るべき物なんて何もないというのに。  窓から太陽がちらつくと、風景のなかに数ヵ月前がフラッシュバックする。  閃光。  虹色の光が空の全ていっぱいに広がって、膨れ上がると、轟と衝撃波が突き抜けた。マリアは思わずうつ伏せに転がった。塵が、風が、熱が吹き抜けた。何が起きたか分からなかった。目を開けたとき、光はオレンジ色の火球に変わっていて、全ては燃やし尽くされていた。膨大な熱量の浮力で持ち上げられた爆煙が柱のように空へ昇った。炎と交ざり合わさりながら、ぬぼっと空高く、遥か彼方まで昇っていった。 ……という光景。  あの中に家族が居たという実感など、沸きようもなかった。マリアが生き残ったのはたまたまだ。たまたま用事で家を空けていて、空から降ってきた機械たちの突然の殺しあいに怯えていたところをたまたま戦争ショーのエキストラ 一団に遭遇して、有無を言わさずトヨタ製のトラックに乗せられると、そのまま彼らと共に、どこぞの誰かよりリークされたらしい安全地帯にまでゴトゴトと畔道を運ばれ助けられた。そうしてそこで、茫然としながらあの核爆発を見せ付けられる事となった。2ヶ月ちょっと前のことだ。  今マリアが見渡すかつての故郷には、ただひたすらにさら地が広がるのみ。もう面影もわからない。あまりにきれいさっぱりに、それ以前の風景や思い出すら一緒くたに何もかも強烈に吹き飛ばしてしまったから。何が何だか分からなくて、以前はこうだったとか、何がどうなってしまったとか、そんな判断も出来ない。  今、マリアは伯父の車に乗せられている。奇跡的に、戦争ショー運営のキャンプで保護されていたマリアを見つけてくれたのだ。伯父たちはキャンプで用を済ませるとマリアをつれて車を走らせた。そうしてさら地を往くこと数十分、車がふいに停車する。 「降りよう」  伯父が言う。マリアは言うとおりにする。そこはやはり何もないさら地。  マリアの問うような目線に、伯父は言葉を続ける。マリアは認めたくなかったが、ここが彼女の家のあった場所だという。
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