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そこに。
雨音に混じって微かな唸り声が聞こえてくる。
旅人は辺りを注意深く見回すと、長剣を手にして立ち上がった。
開かれた双眸は、左目は髪色と同じく黒色であったが、右目は海の底のような深い深い碧色であった。
その神秘的な瞳を大きく見開いて旅人は待つ。唸り声はどんどん大きくなり、それとともに灰色の揺らめきが旅人の目の前に広がっていく。
「……しつこいな。いい加減に力の差を認めなよ」
心底うんざりした口調で呟くと、旅人の背丈ほどの長さの剣の鞘に手をかけた。朱色の紐はひとりでにするすると地面に落ち、旅人はすらりと剣を引き抜いた。
「カイ、ホウ、カイ、シュウ」
何かの呪文のような言葉を旅人が唱えると、長剣に変化が現れる。
――こんな雑魚にアタシの力を使うんかいな。力の無駄遣いも浪費なんやで!っていうか……ぶっちゃけしんどいから力使いたくないんやけど!?
そんな幼い少女のような声が旅人の耳に響く。訛りはあるが軽快な音楽のような言葉。
「クリ。イチノ国まであと少しの距離。ついてこられると後々が面倒だ。一気に片づける」
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