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声の主を『クリ』と呼び、旅人は刀を構える。目の前には灰色の揺らめきから巨大な鬼の姿へと変化した異形の姿。
――しゃぁないなぁ。イチノ国に着いたら美味しいもんご馳走してや!
刀は鞘と同じ朱色の炎をまとう。旅人が軽やかな動作で刀を振り切ると、朱色の炎は風になり鬼の首を切り裂いた。
「雨で力が強まったからって……おまえごとき下等の鬼が私に勝てる訳がないだろう?」
何の感情もこもっていない冷ややかな言葉を発し、旅人は刀を鞘に戻す。同時に地面に落ちていた朱色の紐がひとりでに封印をする。
旅人が上を見上げると、網膜に眩しい光が当たる。
目を細め、眩しさに耐える旅人。分厚い雲の合間から光がこぼれ、細かい水滴をきらきらと光らせた。
旅人は懐から眼帯を取り出し、右目を隠す。
雨は止み、陽のきらめきが地面を照らす。
そして旅人はきらきらと輝く水溜まりの中を進んでいった。
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