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あの後、朱雨さんは
怯えてしまっていた。
「ね…きの…」
「はい?」
「…俺…暁くんに
作ってもらって…
すごく幸せなの。
でもね?
俺は所詮ただの道具なの
政府にこき使われて…
したくないこともした。
だから俺、この世界が、人が
嫌いだった。
でも…きのと出会って
俺、人ってみんな
悪い奴じゃないんだって
分かったの。
ありがとう」
「俺は何もしてませんよ」
「俺、政府に帰ります」
「なっ何で…」
「これ以上…きのに
迷惑はかけられないから…」
「でも…っ」
俺に朱雨さんを
止められる理由なんて…ない。
「お皿いっぱい割っちゃって
ごめんなさい…
俺がちゃんと稼いで…
お皿届けるからっ
許して…?」
「そんなの…怒りませんよ…」
朱雨さんはその後
荷物をまとめ始めた。
「明日には…行くね…」
「…朱雨さん…
もう会えないですか?」
「…わかんない
でも…頼んだら休日
くれるかもしれないから
休日もらったら来るね」
「はい」
――――――
―――
――
「じゃあ…きの
元気でね?」
「朱雨さん…」
「俺は大丈夫。
きの…泣かないで」
気付けば頬は生暖かい涙で
濡らされていた。
「しゅ…うさ…っ」
「…きの…っ
そろそろ…行くね」
俺は返事も出来なかった。
ただ朱雨さんが
消えていくような旅立ちに
恐れて震えていた。
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