黒の男

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 黒色。顔に当たる部位が黒いのだ。まるで、写真の中心から黒色の絵の具が滲みだしたかのように、黒の靄(もや)が顔全体を覆っている……。  約一年間の入院、通院生活が終わり、やっと日常を取り戻すことができた。春には仕事に復帰しても支障はないだろうと医師から言われた。無事新年を迎えることができ、正月休みを期に久々に帰郷することになった。懐かしの実家の自室で荷物の整理をしていると、帰郷したことを聞きつけたらしい高校時代の友人から電話が掛かり、思い出話に花を咲かせた。押し入れから卒業アルバムを引っ張り出し、高校時分を思い出しながら、それを話題に話しているところだ。もう十二年も経ったのかと感慨深くアルバムを捲っていたその時、おかしな写真を見つけた。ある生徒の個人写真である。  端的に言うと顔がない。顔が見えない。黒い靄のような何かが顔全体に掛かり、判然としていない。かろうじて輪郭を捉えられるくらいで、その黒い靄が完全に表情を隠してしまっていた。
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