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今日も東から太陽が昇り、西へ落ちていく。
そう簡単に日常は変わらない。
ただ少し街が騒がしいだけ。
しかし、この日常を「普通」と考えていることが「異常」だと考えている人間は少ない。
苦々しい気持ちが込み上げ、舗装された道路に唾を吐いた。
そう、今俺が何をしようと地球は歩みを止めない。
「普通」は続く。
ただ少し騒がしいだけ。
「本日とうとう、日本国は、和菓子並びに、その他の菓子、甘味物へ『つぶあん』か『こしあん』いづれかの使用ができなくなります!」
国内中にこの声が響いていた。
スピーカーから流れる声を、群衆は固唾を飲んで聞いていた。
「ここまで『つぶあん』派と『こしあん』派は約5年半もの間、どちらが菓子のあんことして使われるべきかを争ってきました!」
そう、今日本は菓子に使用するあんこをつぶあんにするか、
こしあんにするかの選択に迫られている。
しかし、そんなものは好みの問題だと思う人も多かろう。
だが、それがこの国のルールなのだ。
一度派閥同士の争いが始まれば、
決着がつくまで、勝敗が決するまで、いくらでも争いを続けなければならない。
昨年は、
少数派の液のり派と多数派のスティックのり派との戦いが起こり、
三ヶ月の間に少数派の液のり派が敗れ、世の中から液のりは消え去った。
そうして敗れた側は二度と復刻を許されず、
また敗れた側が反乱を起こせば、賛同者全ての死刑が確定する。
そんな思想はおかしいと思うだろう。
それが当然で、自然な思考だ。
ところが、この国は今そうではない。
この思想を普通と考える人間が多数を占めている。
反対派はわずかで、彼等のことを、国家最悪の犯罪者とみなす声も多く、
また政府もそうした反対派をレジスタンスと称し、
身元の割れている何人かを指名手配にしている。
先程、レジスタンスを彼等と他人のように呼んでしまったが、
俺もそのレジスタンスの内の一人だ。
と言うか、東海ブロックの管轄長。
つまりは、幹部だ。
申し遅れたが、俺の名前は鍵宮使希(かぎみやしき)。
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