~決闘~

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さて、 そうこうしている間にじゃんけんの準備が出来たらしい。 じゃんけんの準備とはおかしな話だと思うかもしれないが、 そうとも言えない。 お互いの陣営には心理学者がついており、 相手の出す手を読むのだ。 その為の分析時間が準備なのだ。 こしあん派はミハエル・ハバノフスキー。 ロシア人で、心理学の世界的権威。 つぶあん派は、サモン・ギーアン。 トルコ人で、こちらも心理学の第一人者。 心理学への知識は無いが、手元には二人の経歴が書かれた書類があった。 さて、テレビ画面上では当事者の二人が向かい会っていた。 異様な静けさが漂っている。 二人の間に遮るものは無いと言うのに、 明らかに相入れない深く濃い溝と、 緊張の壁がそこには存在していた。 額から汗が流れた。 俺は関係ないと言うのに、 甘いものは嫌いだと言うのに、 緊張が俺にも伝染する。 俺には二人が互いの額に銃口を突き付けているように見えた。 引き金を引けばどちらかが死ぬ、 それだけが決まっている。 それを待つこの淡々とした時間。 俺はこういった時いつも考えることがある。 銃を撃つのは当事者で、 確かに俺には関係は無い。 だが、死体を片付け、 銃を撃った方を官軍だと、 国民に触れ回るのは俺の仕事なのだ。 それで関係無いと言えるかどうか、 俺は潔白であると言い切れるか、 俺にはそう言える自信も、 仕事に対する自負心もない。 結局、瀕死人にとどめを刺すのはいつも俺なのだ。 一年前、こんな手紙が家に届いた。 差出人は不明の、非常に短い手紙だった。 そこには一言こう書かれていた。 「この人でなし」 俺はこの手紙を見た瞬間、 かけらほどは抱いていた政府行政執行部長のイスへの誇りは砕け散った。 俺の行いはただの非人の所業であったのだ。 痛烈な後悔と自責の念とに押し潰されそうになった。 いや、或は俺自身は押し潰されたのだが、 友の支えで助かった。
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