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好き。
好き、好き、好き。
何度も繰り返し声に出してみる。
「好き…」
「す、好きです…」
「好き…だ…」
職業柄、他の人よりも言い慣れてるはずなのに
「…っ」
あいつにだけは言えない。
僕がこんなことを考えてる間に、あいつは何をしているのだろうか。
笑っているんだろうか。
怒っているんだろうか。
喜んでいるんだろうか。
それとも
泣いているんだろうか。
少しでも、僕のことを考えてくれている時があるのだろうか。
僕が女だったらよかったのに。
なんで僕は男に生まれてきたんだろう。
女だったら…
僕はちゃんとあいつに
好き。
という気持ちを伝えられたのかもしれない。
「好き…好きなんだよ小野君」
ぐっしょりと重くなったパーカーの袖で、またあふれでた涙を拭いた。
今日はやけに月がぼやける――――
fin
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