time:1 その少女、風使い

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澄みきった青空、緑豊かな木々、その木漏れ日から注ぐ暖かい太陽の光。聞こえるのは風で木々が揺れ動く優しい音と羽を休めている小鳥たちの鳴き声。 気持ちのよい昼下がり、一人の少女が大きな木の上にいた。まだ幼く見える少女は綺麗な赤茶色の髪を靡かせ、すやすやと気持ちがよさそうに寝ている。周りを見渡してみると、辺りには誰一人としていない。よく見れば少女がいる木の周りを囲うように大きな建物がいくつも建っている。 ―――カチッカチッカチッ… ……キーンコーンカーンコーン… 誰もが耳にしたことのある音が響き渡った。しかし少女はピクリともせず、まだすやすやと寝息をたてて寝ている。木々がサーっと音を立てて揺れると少女のいる木の下に少女と同い年くらいの少年二人が現れた。 「おーい、紅亜(こうあ)。また授業サボってそんなとこにいたのかー?」 金髪で髪の短い少年が木の上にいる少女に向かってそう言った。少女…紅亜はその声に気づき、顔だけを下にいる少年二人向けると目を擦りながら不機嫌そうに答えた。 「せっかく気持ちよく寝てたのに…起こさないでよ綺一(きいち) 」 「サボってるやつが偉そうに言うな!そんなことやってるとまた彪我(ひゅうが)にどやされるぞ」 ニヤリと意味深な笑みを浮かべる金髪の少年、綺一。一方の紅亜は『彪我』という単語に異常なほど反応して起き上がり、急に起き上がったためにバランスを崩し、鈍い音を立てて地面へと落ちた。 ――――ドスンッ! 「いってててて…」 地面に叩きつけられた衝撃が腰にきているのか、軽く涙目になりながら腰を押さえる紅亜。そんな紅亜にスッと手を差し出したのは、もう一人の少年…芹歌(せりか)だった。 「あっ…ありがと」 紅亜は顔を軽く赤く染めて照れ臭そうにし、芹歌の手を借りて立ち上がった。そして立ち上がった後、服についた砂をポンポンと手ではらった。すると紅亜のまわりに土埃が軽立ち、自身が咳き込んだ。 「ケホケホッ。やっぱり芹歌は誰かさんと違うな~。手を差し出してくる優しさが…」 「なに言ってんの紅亜?僕が優しいって?」 「へ?」 紅亜の声を途中で遮り、綺一と同じくまた意味深に笑う芹歌。その笑みの意味はすぐに紅亜に伝わった。しかし、紅亜がまさかと気づいた時には遅かった。
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