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肩にかけられる茶色いかばんに入れるものは、前日の晩に、厳選に厳選を重ねて決めた。
ぺらぺらの財布。
革でできた小さな筆箱。
少しの衣類。
鍵はいらない。
この家に置いていく。
あとは、あとは……
少し考えてから、死んだ祖父ちゃんの部屋に入った。
祖父ちゃんの部屋には、二年以上が経った今でも彼の名残が色濃く息づいていて、入るときには何となく後ろめたい気分になる。
そう大きくない部屋には、沢山の本が棚から溢れ出し、そこらじゅうに積み重なっている。
舞い上がる埃が白熱灯の明かりを受けて金色にちらつく。
それらを掻き分け掻き分け、窓際の大きな机まで行けば、その飴色の天板の上に、緑色の長方形。
そっと手を伸ばし、深い緑色に触れる。さらさらとした紙の感触が心地好い。
視線を上げれば、カーテンのない窓には、四角い夜が張り付いている。静かだけれど、何かの気配を感じた。夜の、かもしれない。
僕は緑色のそれをそのまま持ち上げて、逃げるように部屋を出た。
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