‥①‥みどりの表紙と旅仕度

3/4
前へ
/42ページ
次へ
肩にかけられる茶色いかばんに入れるものは、前日の晩に、厳選に厳選を重ねて決めた。 ぺらぺらの財布。 革でできた小さな筆箱。 少しの衣類。 鍵はいらない。 この家に置いていく。 あとは、あとは…… 少し考えてから、死んだ祖父ちゃんの部屋に入った。 祖父ちゃんの部屋には、二年以上が経った今でも彼の名残が色濃く息づいていて、入るときには何となく後ろめたい気分になる。 そう大きくない部屋には、沢山の本が棚から溢れ出し、そこらじゅうに積み重なっている。 舞い上がる埃が白熱灯の明かりを受けて金色にちらつく。 それらを掻き分け掻き分け、窓際の大きな机まで行けば、その飴色の天板の上に、緑色の長方形。 そっと手を伸ばし、深い緑色に触れる。さらさらとした紙の感触が心地好い。 視線を上げれば、カーテンのない窓には、四角い夜が張り付いている。静かだけれど、何かの気配を感じた。夜の、かもしれない。 僕は緑色のそれをそのまま持ち上げて、逃げるように部屋を出た。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加