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左(えっ…ちょっ、何で泣いてんの!?)
今まで笑った顔しか見たことのなかった左近は焦った
自分が何か失言したのかと思って頭の中で振り返るが、言った覚えがない
しかし、一つだけ振り返った刹那見た表情でわかったことがある
左(一体…誰を想い浮かべたんだろうねぇ?)
―家族か、友人か…恋人か―
とにかく、今の早智の心の中に自分は居ない
そう考えると、無性に嫉妬心が湧いてきた
気がつくと、無意識のうちに早智を抱き締めていた
早『さ…左近さ、ま?』
戸惑った様な早智のか細い声に左近の胸は鼓動を速くした
左「誰かを思い出してたって顔してたねぇ…恋人かい?」
早『まさか…恋人なんて居ませんよ。ただ、親友を思い出してました』
左近はゆっくりと身体を離す
大きな目が自分を見上げる
泣いたせいで潤む目元が、左近の理性を揺らす
左「へぇ…」
お互い気まずそうに視線を逸らす
数拍後、早智は手拭いを桶に浸け直してもう一度左近の髪を扱いはじめる
早『いつも一緒にいたんです。髪の長い娘で、よく私が結ってあげてたなぁって思い出して…』
左「それで、恋しくなったってわけかい…」
早『はは…ここは、私の生きていた世界とは、全く違って…知り合いも居ないし、独りぼっちになった気がしたんです』
左近は黙って話を聞いていた
早『左近様や三成様にはホントに良くして戴いて…それでも、やっぱり元の世界が忘れられないんです』
悲しげな声に左近は我慢できなくなり、髪を結っていた腕を掴み畳の上に押し倒した
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