幸せな時間

4/7
前へ
/140ページ
次へ
左(えっ…ちょっ、何で泣いてんの!?) 今まで笑った顔しか見たことのなかった左近は焦った 自分が何か失言したのかと思って頭の中で振り返るが、言った覚えがない しかし、一つだけ振り返った刹那見た表情でわかったことがある 左(一体…誰を想い浮かべたんだろうねぇ?) ―家族か、友人か…恋人か― とにかく、今の早智の心の中に自分は居ない そう考えると、無性に嫉妬心が湧いてきた 気がつくと、無意識のうちに早智を抱き締めていた 早『さ…左近さ、ま?』 戸惑った様な早智のか細い声に左近の胸は鼓動を速くした 左「誰かを思い出してたって顔してたねぇ…恋人かい?」 早『まさか…恋人なんて居ませんよ。ただ、親友を思い出してました』 左近はゆっくりと身体を離す 大きな目が自分を見上げる 泣いたせいで潤む目元が、左近の理性を揺らす 左「へぇ…」 お互い気まずそうに視線を逸らす 数拍後、早智は手拭いを桶に浸け直してもう一度左近の髪を扱いはじめる 早『いつも一緒にいたんです。髪の長い娘で、よく私が結ってあげてたなぁって思い出して…』 左「それで、恋しくなったってわけかい…」 早『はは…ここは、私の生きていた世界とは、全く違って…知り合いも居ないし、独りぼっちになった気がしたんです』 左近は黙って話を聞いていた 早『左近様や三成様にはホントに良くして戴いて…それでも、やっぱり元の世界が忘れられないんです』 悲しげな声に左近は我慢できなくなり、髪を結っていた腕を掴み畳の上に押し倒した
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加