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友人が好きな人が居ると相談され、俺は友人の家で戦略会議を開く事となった。
「それで、相手は?」
「同じクラスの女なんだけどさ。俺達と違って、高貴っつう感じ?」
「俺達って何だよ、俺達って」
「悪い悪い」
近くにあったマンガ雑誌を投げる振りをすると、友人はニヤッとしながら謝った。
「まぁいいか。そういう相手は、やっぱりラブレターが良いだろうな」
「俺、書き方なんて分かんねぇよ」
「じゃあ、俺流で良いなら教えてやるよ」
俺がそう言うと、友人はノートとシャープペンを引っ張り出してメモの準備を始めた。
「内容は任せるけど、あんまり長ったらしいのは良くないよな」
俺の言葉をふんふんと頷きながら、友人はノートに書きなぐっている。
「ただ《好き》って簡単に使っても安易だろ。何か別の言葉で言い換えた方が詩的だよな」
「何を指すんだ?」
友人はキョトンとした顔をしながら尋ねて来たので、俺は頭を軽く叩いた。
「馬鹿、ポエムだ」
「あぁ、そっちね」
そう言って、友人は再びノートにメモを書き出した。
「言い換えって言っても、やっぱり率直な気持ちを伝える感じな」
「難しいな」
「当たり前だろ、ちょっと苦労はしろよ。後は…そうだなぁ。ラブレター自体が草食系っぽいから、ちょっと男らしさを出した方が良いかな。まぁ、こんなもんだろ」
「なるほどな、試してみるわ」
こうして友人は、俺がアドバイスした通りに何とかラブレターを書く事が出来たと報告があり、意中の相手に渡す事となった。
その日の夜に友人から連絡があって、会う事になった。待ち合わせ場所に到着するなり、友人が俺の胸倉を掴んで来た。
「何すんだよ!」
「何だじゃねぇよ!お前のせいで、あの子に嫌われたじゃねぇかよ!」
友人は胸倉を掴んだまま凄んで来る。
「俺のせいかよ」
「あの子、ラブレターを見た瞬間、ビンタされてラブレターを叩き返されたんだぞ!」
やっと掴んでいた手を離し、ズボンの後ろポケットから皺々になったラブレターを投げ付けられ、俺はそれを拾って何が書かれているか確かめる事にした。「お前になんか頼まなきゃ良かった!」
友人の罵声を浴びながら、俺はラブレターに目を通した。そこには、ごく短い文で《ヤらせろ!》と書かれていた。
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