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豪邸に住むあの子。
窓辺のあの子。
美しい顔のあの子。
黒髪のあの子。
可愛いパジャマのあの子。
天体望遠鏡を覗くあの子。
学校の往復で、毎日見掛ける女の子に、僕は恋をしていた。声を掛ける事も無かったが、あれだけ心をくすぐる素材が揃った女の子に出会った事が無かった。僕の見解としては、身体があまり丈夫では無いから、ああして外を見る以外に楽しみが無いのだと感じていた。そして今日、僕は意を決して一つの計画を実行する事を決めていた。彼女を外に連れ出す。恋で昂ぶった気持ちは、さながら自分がロミオ、彼女がジュリェットの気分にさせている。
「ねぇ、君」
僕の呼び掛けに彼女が反応した。
「わたし?」
「そう、私。今日の夜0時に、また逢えないかな?」
「えっ?」
彼女の言葉が止まり、しばらく沈黙が続いたが、そして黙って頷いた。
その日の夜、僕は約束の時間に脚立を持って向かった。変わらず望遠鏡を覗く彼女の脇に石を窓に投げ、彼女に合図を送ると、彼女は視線を僕に向け、軽く笑顔を見せた。僕は脚立を窓辺に掛けて、手を振り降りる様に合図を送る。彼女はゆっくりと脚立を降りて来た。
「わたし、ドキドキしてきた」
「僕もだよ。君と一緒に居たくて」
彼女が近付き、僕の胸に飛び掛かる。
「身体がフワフワする。頭の中がグルグルしてる」
「僕も。こんなに密着されると…」
僕は彼女を抱き締めようと、両手を回した。
「もう駄目…。ごめんなさい…」
そう言うと彼女は、身体を強張らせたかと思うと、僕の胸に嘔吐をした。
「うわぁ!」
僕は大声で叫んでしまい、彼女の家族が屋敷から出て来ると、彼女は父親に抱えられ、去っていった。
こうして僕の恋は終わった。後から聞いた話では、彼女は地球の自転に酔う体質らしく、地球から遠い星を見ないと激しい嘔吐を催すという事だった。
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