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「よっ、と」
青色の作業服を着た男は掛け声で軽く気合いを入れつつ、大量の箱を乗せた台車の前輪を少し浮かせ、段差になっている入口へ一気に押し入れる。その振動で箱が何個か転がり、派手な音を立てると、奥のデスクで事務作業に勤しんでいた男が、フッと息を吐き出して転がった箱に近付く。それらを拾い上げると、再び台車に乗せた。
「やれやれだな、おい」
最後の箱を乗せながら、作業服の男に言った。
「すみません、今度は気をつけます」
「違う。これだよ、これ」
作業服の男の言葉に、箱を指差しながら否定した。
「そうですねぇ、キリが無いですけど、放置する訳にも行かないですから」
申し訳無さそうに頭を下げつつ作業服の男が言った。
「捨てるなんて、どういう神経なんだろうか。マナーがなってないよ」
「みんな捨ててるって意識では無いと思いますよ」
「分かってはいるけどな。まぁ良いか、悪いけど奥の倉庫に持って行ってくれる?終わったら、ちょっとお茶でも飲んで行きなよ」
「ありがとうございます」
タオルで汗を拭きながら笑顔でお礼を言うと、作業服の男は奥にある倉庫へと向かった。
「よい…しょっと」
空きのある棚に持って来た箱を丁寧に重ねつつ収納すると、今日の日付を書き込んだ紙を張り付けた。倉庫は薄暗く、先か見えないくらい広大だった。
「よし、これで今日の分は終わった」
作業服の男が倉庫から出て来ると、先程の事務作業をしていた男が、冷たい麦茶を応接用のテーブルに置いている所だった。
「お疲れ。休憩して行ってよ」
「いつもすみませんねぇ」
作業服の男はソファに腰掛け、麦茶を口にする。良く冷えていて、ほてった身体をクールダウンしてくれた。
「本当にご苦労様だよ」
「これも仕事ですから」
「しかし、倉庫は大丈夫かな。まだ空きはある?」
「ええ、まだ大丈夫です」
「それなら良いけど、みんな、もう少し考えて欲しいよ。こんなに苦労してる現場を見せてやりたいよ」
事務員は、眼鏡に手を掛けながらぼやく。
「仕方無いですよ。みんな一生懸命なんですから」
「確かにそうだけど、少しくらい頭を使ったって、バチは当たらないと思うんだよ」
「そうですねぇ、私らからしたら効率良く仕事が出来るだけなんですけど」
作業服の男はニコリと笑いながら答えた。
「全くだよ。願い事をしたら、住所と名前くらい言ってほしいよ」
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