曽根崎という男

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服も買い揃え、着替えてから依頼主のいるペンションへのバスに乗り込んだ。 乗っている人は、叔父さんと私を除いて四人。 若い男女のペアと30代くらいの男二人。 若い男女のペア。二十歳になったばかりの夏樹が言うのも可笑しいが。 事実、若いのだ。一見、高校生ペア。どう見ても、お忍びで来ているとしか見えない。 夏樹と京都は静かに空いている席に座り込んだ。 車内の空気は重かった。 「うん」 京都の相槌にも似た言葉は車内に良く響く。 「やっぱそういったくだけた感じの方が似合うじゃないか。若い内はスーツなんて着るようなものじゃないよ。スーツを着て似合うっていう若者は、将来が不安で必死に駆け回ってる奴らだけだよ」 「今だと就職に対して必死なのは当然じゃないですか?」 「温いね。今の若者には貪欲さ、というものが感じられない。昔は、だとか言うつもりもないけど。その貪欲な人間の割合が薄れてきているのさ」 「貪欲、ですか」 夏樹にしてみれば、想像が働かない。 自分自身、将来というものに向かって邁進しているつもりなのだ。 勉強もしっかりやっているし、身体も毎日鍛えている。 「べつに夏樹ちゃんがそうだとは言っていないさ。若者と言いはしたけど、僕は社会全体がそうだと思ってるし」 「社会全体、ですか?」 「うん。風潮というかなんというか。物事に対しての姿勢が変わってるんだよ。僕から見れば、スーツを着ている人間は、『馬子にも衣装』状態さ」 小声で話しているはずだが、京都の言葉は拡張器を使っているみたいに夏樹の耳にガツンと響く。 「僕の言っている意味なんて理解出来なくていいよ。所詮は脱落者の小言だからね。むしろ、理解出来る方がおかしい」 ニタリと笑ったかと思うと、バスの外に目を向ける。いつの間にか山道に入っていたらしく。まだ溶けきってない雪がちらほら見えていた。 山の尾根に、チラチラと建物が見えはじめている。 もう少しで目的地に着くらしい。
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