曽根崎という男

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まず、主役の置かれている現状を説明しよう。 名前は四季夏樹(しきなつき)。 一ヶ月前に高校を卒業して京都に引っ越し、京都にある士官学校に入学して、当初は寮に入るだとか、一人暮らしをするだとか、そんな意見も出たのだが、全て父から却下された。 一人娘なだけにそこらは心配なのだろう。 夏樹が家を出ると言った当初は顔を真っ赤にして泣きながら反対されたものだ。 そして妥協された案として、母の弟の家に居候という形で落ち着いた。 ということで京都にすんでいるという母の弟。 曽根崎京都(そねざきけいと)。まずこの人を説明しなければならなかった。 夏樹の事など後回しでよかったのだ。 今年で40を迎える叔父。 のわりには若々しい。しかし夏樹はあまり叔父に会っていない。正直いって一ヶ月ほどあった中でほとんど話した事がないのだ。 家ではほとんど会えない。会わないのではなくて会えないのだ。 なんせ家がでかいのだ。大きいのだ。京都の都心のど真ん中に建てた豪邸。あまりに広すぎて会えないというのが現状。 だが、仮にそんな状況じゃなくても、夏樹は叔父を避けていただろう。 理由は至極単純。 この叔父。いや、あえて言わせてもらうがこの男。 夏樹が憧れ抱き夢にまでも見てこの身焦がし鞭を打ち必死で目指している職業警察官それも東京警視庁の刑事という立場にいたこの男は数年前に何を思ったのか辞めると一言残して京都に一軒家を建てて隠居したというのだ。 夏樹の代弁で怒りにまかせて句読点すら付けずにまくし立ててしまったが、夏樹のこのやりようのない怒りは当然だろう。 そして警察辞めて何をしているかと言えば、探偵だ。 探偵。 たんてい。 タンテイ。 こうやってみれば何とも胡散臭い職業なのだろうか。 夏樹は叔父と会うまでは探偵という職業が実在するとは思わなかった。 探偵はアニメや小説の世界でしかいないものだとすら思っていたほどだ。
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