曽根崎という男

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電話の内容はこうだ。 急にインフルエンザが流行ってしまい、教師も生徒も大勢寝込んでしまったようで休講のことだ。しかもそれは一週間ほど続くという。 ようはゴールデンウイーク一杯まで。 そして、遊ぶ約束をしていた友人全員もインフルエンザにかかってしまったらしく。今の電話相手もインフルエンザらしい。 「そう。大事とってしっかり休んでね。それじゃあ」 夏樹が電話を切り、京都を見てみるとやはり笑みを浮かべている。 「どうやら予定はキャンセルになったみたいだな。どうだい? 君の選択は。勿論いろいろと手はうつよ。宿泊先には部屋は別にしてもらうし、基本は自由に動き回ってもらって構わない。こんな四十のオッサンと旅行に行くってだけで重荷だろうがね」 当たり前だ、と言いたかったが、あまり失礼になるから夏樹は口を閉じた。 しかし夏樹にとって京都の提案は魅力的である。 警察を目指しているので、そういった現場に立ち会ってみたいのもある。 そしてなにより温泉と食だ。 「……それって幾らかかるのですか?」 「勿論タダに決まってるじゃないか。俺達が呼ばれてるのだから金なんか使わないだろう」 「流石にその考えはおかしいです」 痺れを切らせて夏樹が口を挟むと、京都は箸を止め、身を乗り出して夏樹に迫る。 「興味出たね。どうする?」 その問いに夏樹は数瞬、考える。 「こんな経験そうは出来ないんじゃない? 言っても数ヶ月前までは君は高校生だったんだろ? こうやって親元を離れたと言っても所詮は世間も知らない子供だ。それなのにより好みしてチャンスを自ら蹴るなんて」 「行きますよ! 助手でもなんでもやってみます!」 まさに売り言葉に買い言葉。 まんまと京都に乗せられた夏樹だった。
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