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私は完全な完成を望む。
だったら……時間に縛られたこの身体は不要だ。
私がその怪談の核になろう。
私の名前で夏江に殺させよう。
それが私の理由だった……
『私を--殺すの?』
私は喉を震わす。
そんな私を見て彼女は笑った。
--そんな事はしない、と
「あなたも思ったはずです。自分と私は似ていると。私もそうです。ただ、本質が違う。
あなたは完成された呪いを作る方法を、私はそんな呪いを解く方法を探している。つまり私たちは利害が一致しているんです。感謝はしても憎むことはありませんよ」
それに、と彼女は間を置く。
『それに?』
そんな間に、いたたまれない不安を感じ取った私はオウムのように訊き返す。
そんな私を見て、彼女が微かに笑ったように見えた。
そして--
「仮に殺すとしても、それは私ではありません」
『……え?』
瞬間--身体が引き歪んだ。
ある筈のない、触れる事の出来ない私の身体が強引に引っ張られる。
『--っな!?』
そんなありえない現象に、私の頭の中は混乱を極めていた。
執拗に絡み付く、無数の腕たち。
何かが歪み、悶えるような音が響く。
それが声だと理解した時、ようやくこの現象が何なのか悟った。
--仮に殺すとしても、それは私ではありません
そんな彼女の言葉が、私の頭の中で呪文のように繰り返される。
一瞬の出来事。
抗う術などありはしない。
ただ成されるがままに、私の身体は宙へと投げ出される。
そんな私を彼女は笑顔で見送る。
堕ちる私の耳に飛び込んできた最後の声は、
「さようなら」
と、言う。彼女の冷たい声だった。
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