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時間を少しずらせば、飛鳥ちゃんを避ける事は簡単だった。簡単に避けられる程、俺らは薄い関係だったんだ。
飛鳥ちゃんがいつも駆け寄ってくれたから、今まで俺はそれに気付いていなかった。
「本当に、馬鹿だよな……」
いつもより遅くやってきた武道場の扉を眺めて、俺は溜め息を吐く。飛鳥ちゃんとの距離を自分から埋めていたら、何か変わっていたのかもしれない。けれど全ては、今さらだ。
「ああ、全くの馬鹿者だよ、部長は」
「そうだよな……って」
独り言に答えた誰かの声。振り返れば、竹刀を背負う逢斗がそこにいた。
「少し素直になれば、薔薇色エレガンスな運命が待ち受けているというのに……それで僕に勝とうなど、剣道でも恋愛でも永久に無理だね」
前髪をさらりと流し、逢斗はキザっぽく語る。その姿を見ていたら、なんだか胸の奥が焼け焦げる気がした。
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