『闖入者』

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『闖入者』

俺の家にそいつが転がり込んできたのは、真冬の早朝のことだった。 その日、目を覚ました俺は、異常なほどの冷え込みと乾燥で口の中がパリパリになっていて我ながら不機嫌だったのを覚えている。 「……さみぃな」 予想より掠れた声が喉を擦って、軽い咳がでた。 独り言をいう癖は、長い一人暮らしのおかげでしっかり染みついてしまっている。 とりたてて気にもせず、俺はぶつぶつとぼやきながら熱いコーヒーを淹れた。 カップを持ち上げると、これでもかと白さをアピールしながら湯気が顎を湿らせる。 俺はそのぬくもりを吸い込み、味もわからないほどの熱い液体を飲み込み、カップを持ったままいつものように玄関に向かった……まぁ、向かった、といってもほんの5、6歩のことだが。 築38年のボロアパートながら、駅から近く家賃も安いこの部屋には概ね満足している。ただ、数少ない悩みの種のひとつなのが、冬場のドアの新聞受けだ。 新聞が挟まると、外とダイレクトにつながる隙間ができてしまうのだ。 今朝のように冷え込んだ日には、外気をすーすーと導いている朝刊を引っこ抜きながら寒さに首を縮めることになるわけで。 今年こそ両脇にガムテープでも貼ってやるか、と考えながら朝刊をぺろりと半分広げたところで、俺はふと息を吐き損ねた。 誰か、いる。
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