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「開けてよ」
普通に聞けば感情の起伏のない眠そうな声、よく聞けば人を小バカにしたようなその声を、俺は3年ぶりに耳にした。
こいつを前にして、懐かしさなどという繊細なもんを感じる心の余裕は、俺にはない。
「何しに来たんだよ!」
「いいから開けてよ!」
こいつは相変わらず図々しい。
変わらずどころか、3年よりさらに前、つるんでバカ騒ぎをしていた学生時代の香りがぷんぷんしてくる。
いったい何だってんだ?
平穏につつましく暮らしてる俺のとこにいきなりやってきて、これか?
「開けろって、お前な」
俺の言葉を無視し、黒瀬は新聞受けから片手をグリグリと無理に突っ込んで「鍵」と言うようにドアノブの方を指差した。
「何で俺がお前を入れてやんなきゃなんねぇんだよ」
無言のまま、早く早くと指が促す。
俺は無性にイラッときた。
立ち上がると大股にドアに歩み寄って至近からドアに声を叩きつける。
「何で、俺の、家に、お前を!」
俺の剣幕にビビったように、ヤツの手が引っ込む。
しかし、新聞受けの蓋が罠のようにヤツの指をガッチリ挟んだ。
おっしゃあ!
新聞受けの蓋に、快哉を叫ぶ。
ガリッという嫌な感覚が容易に想像できて、俺の指までムズムズする。
やや間があってからもう片方の手が蓋を押し開け、あたふたと挟まれた指を救出した。
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