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すぐにこれは夢だと分かった。
暗闇の中、僕は一人っきりだった。
どこまで歩いてもあるのは暗闇だけ。
そんな中、目の前に映像が『とんだ』ように、いきなり眼鏡をかけたまだ若い男が現れた。
それは白衣を着た僕の担任だった。
「悩みを言ってごらん?」
唐突に、もう聞かないと思っていた、毎回面談で聞かれる質問が飛んできた。
「なんで僕は生まれてきたんですか?」
「親の気まぐれだ」
なにかいつもと対応が違う。
「なんで僕は生きているんですか?」
「社会が無理やり生かしているからだ」
やはり違う。夢だからだろうか。
「なんで僕はこんなに勉強しているんですか?」
「社会の歯車になるためだ」
いや、何か違う。どこか心の声を聞いているみたいだ。
「なら僕はどこに向かっていけばいいんですか?」
「知らんよ、そんなこと。」
素っ気ないな。
「何もないんだったらとりあえず勉強して社会の歯車になれ」
それは僕が求めている答えじゃない。先生、ちゃんと答えて下さい。
「真面目に答えろだと?
ハッ、甘えるな。自分で探せ。
上から降ってこないなら地面を這いつくばって探せ。
地面にないなら穴を掘って探せ。 それでも見つからないなら・・・・・・諦めな」
「もっと楽に見つからないんですか?」
「知るか。そんな方法があるならこんな仕事してねえよ」
いつもニコニコしているけど本当はこんなこと考えてたんだ。
「もういいか?俺は疲れてんだ。帰らせてもらうぞ」
「先生!!」
いかなり背を向けた先生に僕は久しぶりに大きな声を出して呼び止めた。
「なんだ?俺は早く帰りたい・・・・・・」
「先生の夢はなんでしたか?」
僕の質問に先生は狐につままれたような顔の後にフッと笑った。
「忘れたよ、そんなもの」
いやあの顔は覚えているな。
「だけど一つだけ」
「え?」
「一つだけ人生の先輩からのアドバイスだ」
何だろう?
「とことん悩め。悩んで悩んで悩み抜け。
そうすれば後悔なんてしなくてすむ。俺みたいにな」
またこっちに背を向けて歩き出した。
「お前はそうはなるなよ」
片手を上げて去っていく、その先生の後ろ姿を僕は生まれて初めて『かっこいい』と思った。
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