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記憶が無い? 馬鹿馬鹿しい。王滝神楽として記憶を持っている。自分の記憶以外に、何があると言うのだ。
「冬馬、こいつ貰ってくよ」
言いながら、右哉に目配せをした。神楽に肩を貸し、フェンスから離れると、冬馬は眉をひそめた。
「おい、どうするつもりだ」
「記憶のない人間を殺す事はできないでしょ。間違いはあっちゃ駄目なの。だから、少しだけ刺激を与えないと」
「……」
「これはあたし達がやるから、冬馬は別の翼を追って。あ、ベルゼブブには気をつけるようにね」
当然の如く言い放つ左弥に、冬馬は口を閉ざした。
間違いならもう、とっくの昔に犯している。そう、記憶が蘇った瞬間から。だが言えるはずもなかった。この女に反論は無意味だ。冬馬は、消えるようにこの場を後にした。
「行くよ。右哉」
「おう」
神楽は抵抗しなかった。されるがまま一階に連れ出され、二人の車に押し込まれた。何処へ連れて行かれるのか。
この二人が現れてからだ。いや、四人があの場に存在する事で、何かが自分の中で起きているような気がしてならない。一体、何が起きている?
†
目が覚めたと同時に、酷い頭痛に襲われた。そして見慣れぬ視界。ここは何処だ? 昨夜、男に会って理由も分からぬまま襲われて、それで……。
「よお」
突如、頭上から声が降ってきた。男のものだ。昨夜と同じ声に気付き、神楽は、思わず上体を持ち上げた。
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