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「さ、左弥ッ……」
「勝手な事しないで」
狼狽する男の様子から、一目で、女が男よりも強い力の持ち主だと理解した。屋上の時もそうだ。女に歯向かう者はいなかった。
女は神楽の近くに来ると、名を名乗った。
「こっちは双子の弟で右哉。あんたは?」
「……」
「分かった。言いたくないなら言わなくていい。どうせ無意味だもんね。それで? 何か思い出した?」
女、左弥は見下すように言った。いや、ようではない。見下しているのだ。虚仮にしているのが手にとるように分かる。
「……別に。思い出す事なんてなんもねえ。宗教の勧誘ならお断りだ」
「――このッ!」
血の気の多い弟を一瞥すると、左弥はゆっくりと、神楽の顔に近付いた。
「何でこんなに執着するか分かる? あんたがあたし達の探してる奴かもしれない。そう思ったから」
「……俺が?」
「そう」
「どういう事だよ」
神楽の問いに、まるで譫言のように、誰に問うわけでもなく、左弥はこう続けた。
「残酷な程美しく、明けの明星と呼ばれ栄華を誇った。堕天する際、地下に私を引きずり込もうとした双子の兄」
思い出す度に、屈辱に震える。左弥は拳を握り締めた。
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