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「んじゃ、行くか」
茫然自失神楽を、言う通りにするのは簡単だった。
「本当に黒翼なんかねえ」
右哉は続けた。
「黒翼は、もっと残忍で卑怯で憎悪の塊でしかないのに」
最上階から一階まで下りて来た二人は、地下の駐車場へと来ていた。再びあの車に乗せられると、運転席には右哉の姿。
「でもお前、本当に……いや……」
「……」
「演技かもしれねぇしな」
疑いの目。不快で仕方なかった。
「お前は、もし本当に記憶がないのなら、きっと間違いなくどっちかだろうよ」
暫く無言のまま車を走らせていた右弥であったが、人気のない、高速道路の下で車を停めると、助手席の神楽を引きずり出しながら、そう言った。
「……どっちか?」
「そう、どっちか。まぁ、知る必要はねぇ。どのみち、いずれ左弥に追っかけられる事になるだろうから」
「俺は!」
「あー、もういい。うぜぇ。行けよ」
右哉は、再び車に乗り込みながら、立ち尽くす神楽に、開けた窓から面倒臭そうに言い放った。
「いいか、厄介事はごめんなんだよ、俺だって。でもな、左弥はああ言ったけど、俺はあいつの手をもうこれ以上、血に染めたくねぇ。それが例え、誰の血であろうと」
「……」
「記憶なんて、こんな記憶なんてはっきり言って邪魔なだけだ。俺は、自分を失いそうで怖いんだよ。左弥が、別の物に代わって行くのが怖いんだよ……だから、お前は記憶を戻すなよ。言っとくけど、忠告はしたぜ。二度はない。次会ったら、殺し合いだ」
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