Twin angel

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歩く気力さえも無いような、脱力した神楽を一人その場に残し、右弥は走り去った。冬の冷たい風が、肌に突き刺さる。  俺はこれからどうしたらいい? 親父に、お袋になんて言ったらいい? 自分は悪魔で、いつか天使に殺されますと、素直に言える奴が何処にいる。言ったところで頭のイカれた息子と嘆くだけだろう。  神楽は虚しくその場に座り込んだ。柱の壁に描かれた、鮮やかな落書きが目に入ると、自分に相応しいと場所だと、己を一笑した。 「悪魔、か…」  どういう意味で言ったのかは分からない。もしかしたら、本当に自分は悪魔なのかもしれない。しかし、あれはトリックであっただろうか。女の見せた背中の翼は、紛れもなく、何もない空間から突如として現れたものだ。  悪魔、天使、失われた記憶。一晩では理解し難い出来事だ。現実と想像の狭間にいる。曖昧で、足が地に着いていない状態であった。 (……家に帰ろう)  忘れた方がいい。そう思い、立ち上がった。家に帰って、父親に相談すればいい。探偵事務所だ。人脈を使って、素性を調べればなんとかなる。だが、待てよと、神楽は不意に右哉の科白を思い出した。  ――次会ったら、殺し合い。  それは、記憶が蘇った王滝神楽に言っているのだろう。記憶は蘇らない。仮にあったとしても蘇る保証はない。だが、既に渦中にいるのだ。目をつけられている以上は、反って、両親を危険に晒す事になるのではないだろうか。
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