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口を噤む神楽を一瞥すると、見せつけるように大きく溜め息を吐いた。
「あんなぁ、仲間だから色々言ってやってんだぜ? お前も分かってんだろ。だったらもっと自分を知ろうとしたらどうなんだ」
「……勝手に争ってろよ」
「何ぃ?」
「記憶は戻らない。戻せない。だから俺は関係ない」
「てめ……」
「あんたらの事は認めてやる。理解もした。けどな、俺は何も知らねぇ。何も知らないから、何もできないんだよ」
「……」
「いきなり巻き込まれたって、何もできねぇよ。力にはなれない」
これでいい。本当の事だ。嘘を吐く気もない。男が、右哉と呼ばれた男と同じように、逆昂してくると思っていた。しかし、外していた視線を男に戻すと、ただ静かに、神楽の言葉に耳を傾けていたようであった。
「お前の言う通りだ。だが、俺だって最初は人間として生まれたよ。でもな、分かってくれる奴がいなかった。だから、はぐれていったんだ。だから、俺を人間として繋ぎとめておく者もいなくなって、この様だ」
「……」
「お前はいるんだな。理解してくれる奴が。お前を人間として、繋ぎとめてくれてる奴が」
寂しそうに見えたのは錯覚ではないと、しっかりとそう思えるほど、彼の声が沈んでいたからに違いなかった。
理解、俺には二人いた。
生後三か月の俺は、手も触れず自分で玩具を動かしていたらしい。それを最初に見たのはお袋だった。そりゃ驚くよな。勝手に玩具が騒いでりゃよ。お袋は親父に祈祷を相談したらしいが、親父は乗らなかった。神から授かった力だって。
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