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控えのソファーにいる女達と暇を持て余していたボーイは、見兼ねてサヤを宥める。
「君の姉さん、凄い美人だし頭良いのに、素は物凄い女王様だよね」
近くを通り掛かった右弥に言うと、「昔からですよ」と当たり前の様に返され、彼は空のグラスを持って、裏へと引っ込んでしまった。
「さすが──」
これは厭味だ。しかし、誰かに聞かれる事はなかった。聞かれたところで困るようなものでもないが。
閉店時間は午前二時。着替えを済ませた左弥は、片付けが終わらない右弥を車の中で待っていた。冬真っ只中だ。この時間は外も凍てつく様に冷たい。
弟が戻る間、車の中で温まっていると、ふと、最近の“違和感”について思い出した。突然感じた強大な力。あれは、本当に唐突であった。
天使のものではない事は明らかだ。だが、殺意どころか悪意すら感じられない。その力に戦いの意志はなかった。
「お待たせ!」
「……遅い」
「仕方ねぇじゃん。寒ぃ、さっさと帰ろうぜ」
左弥はギアを変えると、正面に向けて入れていた車をバックさせ、駐車場を出た。
「左弥はさ、やっぱ気付いてんだよな?」
「何がよ」
深夜と言えど車の通りが激しい国道を、前を向いたままハンドルを握る左弥は、多少スピードを落として答えた。ミラー越しに右哉を見つめる。
「とぼけんなよ」
「……」
「あの力の存在だよ」
「……まぁ、ね。でも、不明瞭なんだから仕方ないじゃん。何処にいるか分かんないんだよ?」
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