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電話越しに分かるはずもない。しかし、感覚がそう訴えて来たのだ。
信用したわけではなかった。危険と感じるよりも、少なからず、好奇心が勝った結果である。
「唐突ですみませんが、用件をどうぞ」
「……用件? ぶざけたことを。俺をからかう余裕があるのなら、相当な手練れと見よう。何者だ、言え」
「……──何言」
突如口調が変わった男。先程までとは打って変わって、妖しく蚩笑する彼に、神楽は寒けを感じた。男の科白に頭がついてゆかず、ただ肌が粟立つのをやり過ごしていた。こいつは一体何を言っているのか。
そして、感じ取っていた力は、ある時不意に明確になるのである。気付いた時には、体が宙に浮き、壁にぶち当たっていた。
何者かだって? それはこっちの科白だ。
「――ッ!?」
理解できぬまま背中に激痛が走る。体制を立て直そうと思った次の瞬間、生まれて初めて恐怖を知った。
「な、に? ……何なんだよ! 下ろせよ!!」
「記憶がないのに力があるのか。しかし、出たり消えたり、不思議な力だ」
――記憶?
宙に浮いた体は、見えない力で捩じ上げられ、フェンスを越えて屋上から外へ連れ出された。ビルの屋上だ。ざっと見ても十メートル以上の高さがある。落とされれば、命の保証はない。
恐怖に顔が歪む神楽を、男は冷めた目付きで窺った。
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