始まりは東京

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その日俺達は修学旅行で東京の街中を走るバスの中にいた。 一番後ろで、騒ぐ金髪の加藤たちををチラリと見ると初めて見る東京タワーに興奮しているようだ。 加藤たちの真ん中に座らされていた吉田が無理矢理窓際の窓硝子に押し付けられ東京タワーを見させられていた。 またやられているのか。俺は、バスの前方に座っているこのクラスの担任の坂本先生を見るが、身動ぎひとつしない。 いや、坂本先生どころかクラスメイトの誰だって、今の状況を気にするやつなんていない。日常茶飯事なんだ苛めが。俺だって関わり合いたくもない。 窓際に座る片山を見る。窓の外を見て動かない。このクラスに加藤を止められるとしたら、野球部のエースのこいつくらいなんだろうと思うが、自分に出来ない事を他人に押し付けるほど俺は烏滸がましい人間ではない。 「あっ。」 片山から何かを気付いた声をあげる。 片山の視線をたどり、窓の外を見る。 「すっげー!東京タワーってあんな風にも光るのかよ。」 声のでかい加藤の腰巾着の園上が叫ぶ。 俺は、片山の視線を追うのを止めて、チラリと園上を見て、また窓の外を見る。 東京タワーを探して、視線をさ迷わせる。見つけた時に気付いたが、片山の視線の先に東京タワーがあったらしい。 あり得ないが、東京タワーに巨大な蛍が群がるように、巨大な光が揺らめいている。 東京タワーの全体が一層強く輝いたのを見た瞬間、俺達は地球から消失した。
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