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人は少ないけど、いないわけじゃない。
そんなこと気にせず
まるで人類誕生のエデンので、世界の人間は俺と桜花だけであるかのように
互いを確認し合うように
俺たちは、長い長いキスをした。
「……じゃあね、悠樹」
「うん、いってらっしゃい、桜花」
そっと、桜花は俺から離れ、目に溜まったものを見せない為か、すぐに搭乗口の方へと歩き始めた。
航空券を機械に通し、最後に桜花は僅かに振り返る。
その揺れる空色の瞳を見たと同時に、俺は叫んでいた。
「桜花!」
「……悠樹?」
桜花は動かない。
涙が頬をつたうのを感じる。
それでも、約束したんだ。
笑顔で見送るって。
「大切な時間なんだ。
楽しんできてね。
……愛してる」
「悠樹……
ありがとう。
私も、愛してる」
俺のぐちゃぐちゃの笑顔を見て、桜花も涙を流しながら微笑む。
俺に背を向けた桜花は、もう振り返らない。
冷たい鉄の壁が桜花を吸い込んで、その姿を消してしまったあとも、俺はその場に立ち尽くしていた。
その2週間後。
10月中盤という、中途半端な時期。
再び俺たちは、空港に来ていた。
瑠璃とイヴが日本にいる目的は、既に達せられることはない。
つまり――
「……残念な帰国になるな。
ん?イヴはそうだけどよ、日本生まれなのに私もこの場合帰国になるのか?」
「私、ゆーきたちと出会えて幸せだったよー。
また……絶対に会おうね」
寂しさを紛らわそうと、飄々とした態度の瑠璃と、その正反対で涙を浮かべたイヴ。
2人は桜花と同じように、航空券片手に俺たちと別れの言葉を交わしていた。
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