一通目 初恋の君

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久しぶりに懐かしい夢を見た。 欠伸混じりに大きく伸びをする。昨夜は馬に乗っていたので身体が固い。侍女が持ってきた水桶で顔を洗って髭を剃りながら、心は遠くにあった。 悪ガキ共と徒党を組んで悪戯しまくった日々。腹を空かして野菜畑に忍び込んだ日々。今は亡き母と二人慎ましやかに暮らした日々。 あの頃はまさか自分が公爵の隠し子だなんて思わなかった。朝昼晩の食事、ティータイムまでたらふく食べ、服のボタンまでメイドが止めるような生活を送るなんて夢にも見なかった。 過去は美化されると言うけれど。 ひもじいし貧しいし下らないことばかりだった過ぎ去りし日が、思い出す度、あんなにも輝いているのは何故だろう。あんなにも懐かしいのは何故だろう。 きっと彼女がいたからだ。
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