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僕はその夜、吸血鬼と遭遇した――――
白磁(はくじ)のように血の気の引いた肌。
刃のように鋭い爪は、捕食している男性の首をがっちりと押さえ、中部まで食い込んでいる。
腰ほどまである艶やかな黒髪は癖もなく、綺麗な直毛。
顔の様子は髪が影になって確認できないが、こちらを向く男性の慄然とした表情が、全てを物語っていた。
男性はまだ若い。見た感じ二十歳半ばくらいか。
黒いダッフルコートに身を包み、九の字に曲げられた足が、真っ白い路面に投げ出されている。
すぐ脇には銀色のアタッシュケース。おそらく仕事からの帰宅途中に襲われてしまったのだろう。
目を剥き身体をしばらく痙攣させていたが、眼瞼(がんけん)が下がるにつれ、痙攣も少しずつ収まっていった。
その頃には血の気の失せたように青白い顔色に変わっていたが、周りが新雪に覆われているせいだろう。
凍死していく様(さま)にも見て取れた。
まるで、精巧に作られた人形の糸が切れたようでもあった。
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