―悲劇―

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明かりを点け周りを照らすと、そこにはまさに地獄のような光景が広がっていたのだ。 連中があちらこちらに転がっている。 しかもどれも、元ある姿をしていない。 首は契れ、腕はもげ、足は有らぬ方向に折れ曲がっている。 形はどれも違うが、既にそれらは人ではない。 人形のようにも見え、ガラクタのようでもあった。 白目を剥き出しにし、驚愕に顔を歪めたまま、表情は動かない。 これは、マネキンじゃないのか―― 現実は鉄のような血の臭いが漂っていることで、容易にも証明されていた。 辺りは血に塗れ、まさに異界だった。 こんなことって―― 僕は我慢の限界だった。 地獄絵図と相まった刺激臭が、嘔吐を誘い出す。 今日食べた物を全て吐き出していると、いつの間にか、ピアノは止んでいた。 足音か近付いて来る。 僕はなんとか顔を上げ、その人物を見据えた。 兎のように赤い目は僕を見下ろし、口元は弓のように吊り上がっていた。 脇から覗くのは刃物みたいに鋭い牙。 白いスカートは返り血で濡れ、指先からは鮮血が滴り落ちている。 僕を見下ろしながら、指先に着いた血を舐め取る。 美怜にとって甘美なのか、高揚した表情を作った。
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