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完全に男性の動きが止まった今でも、僕はその場から動くことが出来なかった。
情けないことに恐怖で足がすくんで、走り出すことができない。顔を背けることもできない。
ただ見開いた瞳は、十メートル先の彼女の姿を捉えたまま、離せないでいる。
状況判断すらも麻痺したかのように真っ白だ。
僕が今着ている同じ高校の学生服姿の少女から、目が離せない。
錆びれた街灯が頼りなく灯り、時折その笠からはらはらと雪が舞い落ちた。
車もここ数時間通った跡もなく、自分以外に人が通り掛かった様子もない細い雪路は、静寂をより深いものにしていた。
しんしん……
しんしん……
あぁ。この道を通らなければ良かったと後悔した。
学校帰りに友達の家に寄るだなんて、考えなければよかったと後悔した。
いつも通りの道を歩いていれば――
近道なんか選ばなければ――
暗くなるまでゲームに熱中していなければ――
様々な後悔が頭を過ぎる。
最近日本でも吸血鬼が徘徊している現実を、実際に目の当たりにするなんて――悪い夢だ。なんでよりにもよって自分の前に。
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